column1 教室の愉しみ

1996年、自宅に工房を構え三年ほど経って専業になってから、吹きガラス教室を始めました。今まで多くの生徒さんたちに支えていただきながら続けられています。

吹きガラスは、習い事としてはまだまだ珍しい分野ですので、ご希望の生徒さんのほとんどが、初めてガラスを触るかたばかりです。たとえ陶芸や彫刻などのご経験があっても、それはまったくと言っていいほど役に立ちません。むしろそういったご経験は邪魔なくらい特殊な作業と言えるかもしれません。

大人になってから、何かをゼロから始めるということはまずありえず、なにか過去の経験を重ねながら体得していくものが多いと思います。しかし、吹きガラスは無色透明なゼロ状態から始める場合がほとんどです。子供の頃、毎日のように味わうことができた「ゼロから最初の一歩を踏み出す」という無限大の喜びを、大人になって再び味わうことができるのです。また、子供の頃のように周りが見えなくなるほどの集中力で練習するので、雑事を一切忘れられる時間を得ることができます。これはストレスの多い社会人には貴重なことのようで、多くの生徒さんには週末の心の浄化もおおきな目的になっています。出来上がるものへの楽しみとあわせて、そういった癒しの魅力に惹かれて練習されているようです。

一方教える側の愉しみは、さまざまな個性の発見に尽きると言えます。教室では、最初は吹きガラスという特殊な制作活動に対応できるか不安に感じられるかたが多いので、「吹きガラス体験」へのご参加をおすすめしています。私が手を取りながらご案内しますので、失敗もなくご希望に近いものがそれほどの苦労もなく出来上がるのですが、そのときから皆様それぞれの手からお人柄のようなものを伝って来ます。私はそれを個性の発露と考えていて、本格的なレッスンが始まってもなるべくその感覚を消してしまわないように心がけています。

はじめ教室では、型通りのお手本をご案内するのですが、初日からそのひとそのひとで全く違うものができてしまいます。それは間違いなく「吹きガラス体験」のときに感じた特徴の延長線上にあります。しばらくすると、みなさんは上達していくのですが、最初のかたちの面影を残しつつそれぞれのかたちに進化し、半年も過ぎれば作品だけを見てどなたの作品かが一目瞭然になります。

そして工房展での発表やお友達へのプレゼント制作などを通じて、少しづつ社会性をおびながら成長していきます。十数年取り組んでプロになられたかたもいらっしゃいますし、プロの水準でありながらもアマチュアとして制作に励まれるかたもいらっしゃいます。ガラスとの付き合い方もみなさんそれぞれです。

毎週末、熱心な皆さんの様子を見ながら、そんなことを感じるのが教室の愉しみであり、静かな醍醐味です。

By | 2017-12-04T23:37:38+00:00 2017年10月13日|コラム|