今年1月の上海介末art and craft gallery での個展は、はじめての海外での個展でした。昨年夏の終わり頃から暮れまで制作に取り組み、東京での個展の2倍の制作規模で臨みました。こちらから現地にご案内できるお客様もいらっしゃらなかったので、営業活動はギャラリーにすべておまかせし、こちらでは制作と発送に専念した数ヶ月でした。

制作にあたっては、外野の意見もいろいろありましたが、にわか勉強をして、無難な最大公約数的なものを作ろうとしても、当て込みようがない状況でしたので、自分の作りたいものだけを作るようにしようと心に決めました。20年からの展示活動のなかで、作ってみたいなと思っていたものの、なかなか手が出ずに時間切れとなってしまうアイテムというのがたくさんあって、そういうものから取り組みました。サイズのおおきなもの、縁のある浅い皿、台付の板皿、四角いテーブル、ゴブレットやデキャンタなどがそういったものです。お客様に具体的な使い道を説明しかねるようなものばかりでしたが、そういうものこそ自由に取り組めたりするものです。そんな自由は当然リスクを伴いますが、精神衛生上はとても健全で、忙しくも愉しい時間でした。

ギャラリーからのおすすめアイテムというものもありました。ビアグラスやお茶系のものなのですが、これらも自由に取り組んでというアドバイスがありましたので、日本ではいろいろ言われてしまうだろうなと思われるものも取り組みました。そんなこんなでぎりぎりまで制作した点数は約350点余。最後は手荷物搬入。ギャラリーオーナーからは「ちょっと多いかな?」と言われましたが、そこは十数億人の大国の度胸でドンと引き受けてくださいました。店内に並んだ溢れんばかりの作品は手前味噌乍ら壮観でした。

現地に赴いたのは、開始前日から3日目までの4日間のみでしたが、それでも上海のお客様と交流することができました。展示にいらっしゃる現地のお客様はみなさんとてもお静かで控えめなかたがたでした。こちらからお声掛けさせていただくと、とても恥ずかしそうにされるかたが多く意外でした。猛烈な値引交渉まで覚悟していたのがすっかり外されてしまいました。中国も当然多様な人々が暮らしている訳で、先入観というものがいかに現実の把握に邪魔なものであるか知らされ、中国のイメージは大きくかわりました。

またお買い上げいただく風景というのも、日本とは随分違っていて、スマホを覗き込みながらのオンライン決済で静かに手続きは進められます。「ありがとうございます」というような声も上がらず、小さく「バイバイ」とお客様とスタッフで挨拶が交わされると、お客様はすっとお店をあとにします。御礼を申し上げる隙がないという状況です。追いかけて「ありがとうございます」と申し上げると、むしろびっくりされてしまうくらいでした。店舗と顧客の関係も素朴でシンプルなようでした。

そして、ギャラリーでのお客様の様子を拝見していて最も感銘を受けたたのは、見る姿勢です。日本でお客様のご様子を見ていると(私自身も含めて)、ものの選び方が、一目惚れと粗捜しのせめぎ合いがあって、一目惚れが勝つとお買い上げにつながるように思うのですが、上海では粗捜しをされている様子がほとんど伺えませんでした。

ものに満たされて充足しきっている今の日本と、まだまだものが足りずに慎重に吟味することがない中国の違いなのではないかという考えもあるとは思います。

しかし、私が肌で感じたのは、心のままにぐいっと摑み取るような、とてもポジティヴにもの選びをしている様子で、「面白そうだったら使ってみよう!」というマインドを感じました。この感覚が伺えたのはとてもうれしかったです。こういうことは、今の日本ではえてしてバブルな感じがして、よくないことのように受け止められる傾向があるかもしれませんが、私が幼い頃の親たちはこういう感覚でもの選びをしていたような気がして、タイムスリップしたように感じられました。

そんな様子を見ていると、今の日本の私たちは、慎重になるあまり、ルール、常識、作法、遠慮、といったような価値観に囚われ過ぎちゃいないかなとも思わされました。上海にルールや常識が欠けているという意味ではなく、そういうものすべては、幸せに暮らすためのもので、緩めに運用するくらいでいいんだ、って思ってるんだろうなってことです。
街には未発達な感じはあるものの、元気と勢いがあって、みんな上を向いて歩いているように感じられ羨ましさすら感じられました。

掲載した写真は、上海でご縁のあったお嬢さんの父上から贈られた書です。
拙作をご覧いただいての感想をお寄せくださいました。

-以下原文-

贵岛雄太朗先生青树舍玻璃工艺有寄
文/张平生
幽隐庭园青樹静,白砂化作蜜流濺。
金齏和碾沉香末,玉骨轻涵翠缕烟。
剔透有容留雅兴,晶瑩难碰遗青莲。
重生浴火惊神秀,清水芙蓉出醴泉。
2019.2.8己亥正月初四(2019年農暦四日)